弓器とは、五射六科のうち、様々な弓具に関する一連の知識です。
「弓器 白木、塗弓、数の重籐、諸矢の式、箙、空穂をはじめ、射具の品々に至る迄を云ふ。」
平瀬光雄『射學要録』より
「弓
名所、長さ、構造
矢
名所、箆、杉形、一文字、麦つぼ(麦粒)、火色、サワシ箆、拭箆、節影、
羽根、根、節、征矢、的矢、大的矢、
弦
名所、並弦、煮弦、関弦、雁金弦
弽
名所、模様、三ツ弽、四ツ弽、一具弽、鞆、押手弽
弓の附属品
張固、弦枕、弓巻、霧除、弓胴油
矢の付属品
矯木、筈挽、矢筒、矢袋
弦に関する用具
弦袋、弦巻
仕掛箱の中身
天鼠革、天鼠棒、小刀、道宝、口入、櫛、仕掛苧」
本多利實翁『弓術講義録 弓具之部』より
過去の『会報』に掲載された記事から、その一部をご紹介します。
【弓】
「弓形の時代的変化、昔はお国風と云う諺の如く弓にも多少異なる点もあって流派によるは勿論ですが殊に尾州の竹林弓の如きは一見して其の特長の相違がありまして他流の共用しがたき位でありました。しかし現今では一般的に弓の形容が統一された様です。夫は我々弓工の基準が射形に置いてあるからであります。それに就て弓と射との関連について申せば昔江戸形と云うは小笠原流を基本とする弓形で又旗本風とも云いました。的弓の形容を賞されて居る時代から推して現今の弓形は竹林との折衷された風に思います。此等の点から見ても弓形は射よりの現われであると思うもので而して故本多生弓齋先生の日置流竹林派の畢生が偲ばれるのであります。私は弓工五十余年生にして今回弓形の統一しつゝある実体的弓形を自覚すると共に生弓齋先生の母性的指導の賜物を思うものであります。」
『会報』創刊号(昭和6年)「新弓と荒弓」石津 重貞 より一部抜粋
【矢】
「矢羽根には水鳥も矧がれています、水鳥は水に浮く為の油が羽根毛にあるものです、それが古くなりますと丁度フケの様に白く固まり落ちてしまいます、そうすると羽根は色艶がなくなり、時代色を生じます。国際保護鳥の朱鷺の美しい色が年代と共に薄れてしまい残念です。どの鳥毛も太陽光線の西日と螢光燈は禁物です。矢羽根に用いる大きな鳥は年々少なくなって貴重なものになりました。昭和十年頃は大鳥も熊鷹も猟鳥でしたが三十年にして激減した為大鳥其の他が保護鳥となりました。
箆には白箆、焦し箆、塗箆の別があります、白箆は虫が付き易く、焦し箆は固いので虫が付難いのです。漆箆の手入には柔らかい布で磨いて下さい、折角の漆の光沢が失なはれます。
矢の根の尖を乳と申します、其の乳に長いのや短かいのがありまして、よく其の違いを問はれるのですが製作所に依って異るので大して意味があるものではありません、強いて申すならば短かい乳のものは的音が良いとか長いのは貫きが良い位の事です。
矢の根も長く使用しますと根の角に小さな穴が開いて砂が入る事があります、気を付けましょう。」
『会報』第101号(昭和44年)「矢の手入れ」石津巌雄 より一部抜粋
【弽】
「古来各流派に於て夫々適当なる鞢を使用して居るのを見ても如何に重大な影響があるかと云う事は窺はれます。保存武術としての弓術に甘んじて居るならば敢て申上げる迄もありませんが、時代に応じ射が改良され向上されつゝある今日、鞢も亦研究され改良されつゝあります。
特に古式を尚ぶ小笠原流に於てさえ現今の諸鞢(モロガケ)を改良して現時に適応せるものを案出せんとして居る由も聞く処であります。新案鞢として製作されつゝあるものは諸鞢から考案されたものと見て良いでしよう。
鞢の種類としては現在使用されつゝある物では流派に依つての相違はありますが、大略、三本指、四本指、小笠原流の諸鞢であります。三本指の鞢より四本指の鞢の使用者が多くなり、装飾的の鞢より無飾の鞢(実用的)のものが多くなったと云う事は時代を物語るものと謂う可きでありましよう。
製作上から申上げれば、節抜、固鞢、半固、柔鞢等であります。各自其の使用の場合に応じて特長があります。」
『会報』創刊号(昭和6年)「鞢に就て」三室共信 より一部抜粋