本多流の特徴

本多流の最大の特徴は、「正面に打ち起こして大三を取る」射法です。明治時代に本多利實翁によって創始され、現在は広く普及しています。以下、詳しく説明しましょう。

この「正面に打ち起こして大三を取る」本多流射法は、日置弾正以来の七道の規矩による射法(正射)を基礎・土台に作られました(射法の詳細は本多流七道のページをご覧ください)。よく中ること(善中)、射形の美しさ(花形)、竹林派の堂射の技法による矢飛び(矢早)を重視し、現代においては最新の科学的知見も取り入れながら「その人の骨法に応じた最大の矢束を引き、緩みなく鋭い離れから、最も早い矢を飛ばすこと」を目標としています。その上で、武家の射としての気品を背景に、現代武道として身心弓の調和、すなわち真の生きた調和を目指し、格調高い、生命力に満ちた射を純度高く追求します(品位)。

また、射術第一としつつも、竹林派の五射六科の伝統を受け継ぎ、一人前の射手に求められる技・知識を幅広く学びます。五射とは巻藁前・的前・遠矢前・差矢前・要前の五つの射術です。差矢前、要前は現代では実施するには難しいものがありますが、伝書等により研究します。六科とは、これらの射術に加え射儀・弓法・弓器・弓工・弓道の六つです。射儀とは現代でいう射礼、弓法とは弓具の取り扱い方、弓器は様々な弓具に関する知識、弓工とは弓具の製作方法、弓道は鳴弦・蟇目などの秘伝です。

五射六科の事
 射術
  巻藁前
   巻藁を置てこれを射るを云ふ。
   足踏、弓構より矢を発して後に至るまでの射形曲直推挽とも悉く
   規矩あらずと云ふことなし。
   射を学ぶの基にして種々教傳あり。
  的前
   的を立て中を試るを云ふ。
   足踏より目当に用る曲尺ありて、目附見込に教傳あり。
  遠矢前
   野外に於て延矢を学ぶを云ふ。或は索矢前と云ふ。
   足踏より身の積目当取物に習あり。
  差矢前
   数多の矢を発し、上下前後の偏りなく数十歩に至る事を学ぶを云ふ。
   元和前後射形に別あり。堂前の射に習あり。
   胴造より始め離の後に至る迄ことごとく教傳あり。
  要前
   軍中戦場にて自由に射る事を学ぶを云ふ。
   或は軍射前または虎口前と云ふ。
   矢入、矢合、火箭、矢文、歩射の六曲をはじめ
   槍脇、槍下、互弓合等の射法に至るまで種々教傳あり。
右を五射と云ふ。射形の三物と云ふは、巻藁前、的前、指矢前なり。或は巻藁前、的前を真とし、要前、遠矢前を行とし、差矢前、堂前を草とす。是を真行草の三物と云ふ。
 射儀
  的巻藁を始め弓射る時の禮なり。君臣の義を明らかにし、
  長幼の序を節するを云ふ。
 弓法
  弓矢取扱の法なり。
  射儀の中に籠ると雖も、平生弓矢の取扱に其法を知らざれば美つくさず。
 弓器
  白木、塗弓、数の重籐、諸矢の式、箙、空穂をはじめ、
  射具の品々に至る迄を云ふ。
 弓工
  弓矢制作の道を明弁し、利外得失を究め知るを云ふ。
 弓道
  神代相承の秘訣、引目、鳴弦、一張弓等の深理を究め知るを云ふ。
右の射術、射儀、弓法、弓器、弓工、弓道を六科と云ふ。悉く知り尽くすを弓道の達人と云ふべし。」

平瀬光雄『射學要録』より

さらに、生弓斎文庫により射学有職故実についても研究し、わが国の豊かな弓道文化を後世に伝えていきます。

鳴弦

 

蟇目

古式装束姿の利實翁

二世利時宗家 紀元2600年祭での直垂姿

二世利時宗家 洗心洞道場開きでの直垂姿

利實翁の蟇目

伝書