總説
之より射禮のことを一と渡り御話し致しませふ、抑射禮は射術に伴ふ當然の法則で 御座います、總て物あれば則ありで、動作あれば悉く禮備はるは自然の道理で御座います、 されば弓を採りて人の前に出づるに當って禮譲を重んずる式といふものがあります、 之を射禮と申します。

射禮は之を射手の言葉で申しますとタイハイといひます、 なぜタイハイと申すかといふに漢字で體配といひます、 即ち體を配るといふことで、體を配るでは如何にも殺氣を含みまして、 軍陣にありては兎も角、貴人紳士の居らるる面前にて體配などと申しては何か貴人紳士に對して威力を振ふ様にも思はれて禮を失するかの掛念もありかたがた、 以前嘗て徳川政府の命令で弓術の禮式に於ては體配は平假名で「たいはい」と書くことになりました、 併し常に行ふて居る射術にした所で何時も平假名でのみ「たいはい」と書くとすれば此禮式の取扱に不便も多く且つ漢字で書くことを得ずとすれば誤解の掛念も 少く御座いません、今日から見れば如何に高貴の人の前を憚るか、唯當時の状態を想像するに過ぎません、 とにかく舊幕府の諸士に命令して弓の禮式は體配といふべき場合には、 平假名で「たいはい」と書けと申し附けたので御座います、 それ故其當時の弓書には體配は皆平假名で書いて御座います。

唯今申す次第で弓を引き習ふものが何か弓術に關する催しをするとか、 又は貴高人の前に出でて弓を引くときは必ず射禮をせねばなりますまい、 そこで此の射禮を習ひ覺える必要も御座います、 それ故一と渡り極普通にして手輕のことを御話し致しませふ。

射禮と単に一口で申せば夫れ迄で御座いますが、 併し之れにも澤山品數が御座いまして中々一様には申されません、 例えば茶の湯の人が手前の手續をする様なものです、 此射禮の極初歩ともうしまするは先づ巻藁射禮と的前射禮で御座います、 此の二つの射禮を豫め覺えて居りますれば見物人に對しても大した無禮もせずに濟みます(略) 【弓道講義 射禮之部より】
      

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